Roonee 247 Fine Arts(ルーニィ・247ファインアーツ)

Exhibition

Room 1企画展

空白の風景

めかぶ

会期:2026.08.19(WED)- 2026.08.30(SUN)

12:00-19:00(月・火 休み 最終日は16:00まで)

X(旧Twitter)をはじめとするSNSは、写真に対する評価を数値で示すことを可能にしたことで、写真の世界を変えたメディアである。X1万以上のいいねがつくことは一般的にバズると称され、多くの人が好んだ写真とみなされる。それでは、バズった写真を解析することで、バズを再現することはできないのだろうか。

私はまず、写真そのものがバズる数値を持っているのではないかと考えた。そこで、2022年当時の日本のXにおいて10万人以上のフォロワーがおり、写真投稿を主に活動しているインフルエンサーの写真で、特に1万いいね以上を獲得した写真を定量化する解析を行なった。具体的な方策として、インフルエンサーの写真のヒストグラムに着目し、彼らのヒストグラムの傾向や特徴の分析を行った。

その一方で、ヒストグラムと同様に重要なのが被写体である。私は、被写体そのものが鑑賞者に与える直接的な印象よりも、その像をきっかけに鑑賞者の内側に立ち上がる「被写体を超えた体験」に着目した。近年のメディア研究やコミュニケーション研究では、感情に関連した身体的な反応や非言語的で無意識的な情動が注目されている。例えば、強い情動が引き起こされると、Xの「リポスト」や「いいね」を押すという反応が見られるとされており、つまりバズるためには情動を強く喚起する必要がある。では強い情動を喚起するにはどうしたら良いのか。私は、鑑賞者を「不安定」にさせる必要があると考えた。高度に発達した動物である人間は、生きるという安定のために他者がいる必要があり、誰もいないと不安定な状態になる動物である。つまり、人間にとって、何らかの意味で不安定な状態というのは、どこか「誰かがいないという寂しさ」を帯びている。それと同時に、安定した状態になるために「寂しさを埋めたい」という感情を感じている。この「誰かがいる/いない」という存在と不存在のバランスが崩れた時、情動が生まれる。 つまり、「被写体を超えた体験」というのは、そこに誰かがいた痕跡を見つけたり、誰かといたという関係を思い出したり、けれどそこには誰もいないという「存在している/存在していない」というギャップを揺れ動いている状態と言える。そしてその人間の存在/不存在の落差こそが、情動を動かす大きさとなる。落差というのは、人の存在が近く感じられるか、遠くに感じられるかといったことが影響している。この落差の大きさを基準に被写体を選定することで、情動のコントロールを試みた。

こうした分析をもとに、2022年に私自身が撮影した情動的な被写体をインフルエンサーのヒストグラムに近似させた写真を作成し、私自身のXアカウントに投稿することで、いいねがどのように推移するかを調査した。その結果、私の作品は1万や5万、13万といったいいねを獲得することができ、バズは再現できる可能性が示唆された。

その後、2024年にRooneeで上記の手法を用いた作品の展示を行ってから2年経ち、2026年現在のバズるヒストグラムは何なのか改めて見つめ直してみたが、この4年間、私のヒストグラムは大きな変化をしておらず、また得られるいいねも波はあれど大きな減少はしていない。もちろん、SNSのアルゴリズムやフォロワー数の推移という変数を完全に排除することはできないが、いわゆる「アニメのような」超現実的なヒストグラムはいまだに人気を保っていると言える。この理由を私なりに考えてみると、この4年間「アニメのような」ヒストグラムはコモディティ化を遂げたことで、かえって大衆の好みの最大公約数として定着し、多くの人の情動を生みやすい色味になったことがあるのではないかと考えている。多くの情報が氾濫する現代において、いつか見たジブリや新海誠の色彩は、情動を生み出す門戸なのであり、そして非常に大きく開けた門戸になっている。アニメのような写真が情動を生み出すのは、「かつて」見たアニメを囲む環境と「今」の落差、つまり、あの時はあったものが今はない、という心の機微によるものだと考える。トレンドが常に移り変わるXにおいて、4年間いまだに変わらずいいねがつく理由には、鑑賞者の情動を生み出す共通項となるようなヒストグラムがある、と言えるのではないだろうか。

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