音楽は人生における想い出や、時代の感覚と紐付いている。当時はそう感じなかったとしても、数年後、数十年後にその曲を聴いてみると、人生のある瞬間を当時の感覚と共に呼び起こしてくれる。その様な記憶装置という意味で、音楽と写真に大きな違いは無い。

その観点から、自分の人生を良くも悪くも彩ってくれた様々な楽曲をセレクトして制作したのが、2022年にフランスで出版された写真集 “From Another Room” であった。音楽にまつわる記憶に寄り添った作品群が ”From Another Room” だとしたら、本展 “power on, gain up, then play” はその記憶から離れ、新しい自由を求める旅の様なものだ。

記憶から離れて別の何かへと変貌を遂げる過程は、音楽のリミックスに近い。サンプリングし、エフェクトを掛け、フレーズやリズムを足してミックスしていく。それにより、少しずつテーマから解放されていく。ある時は過去の記憶を強調し、ある時は予期せぬ場所へ流れ着いて新たな感覚を得る。常識に支配されても、されなくても良い。ルールは自分次第である。

2022年、“From Another Room” 出版を切っ掛けにヨーロッパ、インドの友人を訪ねる３ヶ月間の旅に出た。17カ国を巡って各地で友人達と再会し、多くの新しい友人達も得た。その旅で得たのは、大抵の事は絶対では無く、時代と地域により意味は変化していくという感覚であった。一方、各国で共通していた事は人々の ”Enjoy Life” というシンプルな欲求だった。

「パワーをオン、ゲインをアップ、そしてプレイ」という、シンプルなアクションの奥底にあるもの。今回の作品制作と旅によって、”Enjoy Life” という欲求、そして自由というものに少し近付けた気がする。